これから同人小説の価格の話をしよう。後編
小説の話に入ることすらできなかった前編につづいて後編です。
小説同人誌の値段設定について思うところを記事にしたいと思います。
この記事は主に少部数しか発行しないサークルさん向けです。がんばっている中堅以上の小説サークルさんは独自の価格設定をしていると思いますし、そうじゃないと長くはやっていけないと思います。
結論は出ている
とりあえず結論から。
個人で出す小説は、どんなページ数でも500円で売ることにします。
逆にいえば、
500円で黒字化できないページ数の小説は印刷してはいけません!(ドーン)
漫画同人誌と小説同人誌
同人誌を印刷する場合、多くは個人で印刷所を通します。
オフセット印刷とオンデマンド印刷の違いやWeb入稿の早割りなど、印刷の基本はみなさんはすでに知っている前提で進めます。
ただ漫画しか作った経験がない人は気にしたことがないかもしれませんが、小説同人の場合、この『印刷』という段階で大きな壁が立ちはだかります。
「同人誌印刷はページ数が増えれば増えるだけ値段が高くなる」のです。
そして追い打ちをかけるように「同人小説は150pオーバーがざらにある」ということ。同人漫画は平均して16~32pなのに対して小説は100pあってもまず足りません。
当然、印刷費をそのまま部数で割った値段を頒布価格にしたらとんでもないことになります。
ためしに152pの小説本を100部刷ったとします。(ページ区切りは4の倍数です)
ポプルスさんで上記の条件で印刷した場合、53,361円かかります。(割引も割増もしない条件)これを100で割ると、1冊あたり534円。
つまり1冊500円にしたら売れば売るだけ赤字です!
(追記:この値段は同人世界で最も流通しているB5サイズの値段です。小説といえば新書サイズ、いやいやA5だろう、と思われる方もいるので別途印刷所サイト様でご確認ください。6行下の参考からも見ることができます。balz-9さん、ご指摘ありがとうございました)
黒字化大作戦
ですが、ここで賢明な読者の諸君は考えます。
「待てよ? たしか大量に刷れば刷るだけ1冊あたりの単価は安くなるはず。もっと大量に部数を刷ればいいじゃないか!」
かしこい! かわいい! エリー……
では152pの小説同人誌をいくら刷れば500円で黒字化できるのか?
300部です(参考)。
300部を一日で売り切ってはじめて焼肉が食べられます。ちなみに印刷代そのものは12万4341円かかります。ぶっちゃけそのお金で東京で豪遊したほうがいいです。
非常にせちがらいことに小説同人はまず売れません。
「俺は同人誌が作れたらそれでいい! FXで稼いで浴びるほど金持ってる俺に同人は最高の道楽なんだ!」という方ならいいんですが、
問題は、小説同人でもなんとかして印刷費は回収したい、もしくは交通費まで含めてペイしたい、黒字化して壁サークル並みに焼肉食べたい。小説同人だけ売って暮らしていきたい……という人はどうすればいいのか、ということです。
結論を思い出してください。
152pで足が出るなら、もっと少ないページ数で印刷すればいいのです。
例によってポプルスさんで100部刷るとして、500円で頒布するなら最大136pの小説本が作れます。1冊あたりの単価は489円。全部売れば印刷費は回収できる!
そうです、同人小説の値段のつけ方は漫画と逆なのです。
漫画本は描いてから値段を決めていましたが、小説本はまず値段を決めてからページを決めるのが正解です。
「じゃあ、値段設定を1000円にすればもっと長い小説が書けるってこと?」
はい。いいところに目をつけましたね。
価格を1000円に設定すれば、理論上320pまでの本をペイできるようになります。
ですがちょっと待ってください。
いま手元にある「ブラック・ブレット」を開いてください。神崎紫電先生の「ブラック・ブレット」です。開きましたね? あとがきまで入れて320pですね?
ちゃんと開いてください。本当は345pです。
そして価格を見てください。630円です。
漫画同人とちがって同人小説はページ数が多いことは強みにはなりません。
多くの読者は、同人即売会で名前も知らない相手の小説は買いません(百合ジャンルは別)。面白いラノベが安く買えるにもかからず、編集も通していない同人小説を300pも読む根気はありません(あなたが神崎紫電先生なら別)。
だから500円(ワンコイン)で出すのが一番売れる可能性が高いのです。
同人即売会というお祭りでは、インスタントに楽しめる必要があるのです。
何度も言いますが、俺の萌えを見ろ! 私のカプ愛を見て! という人は自分のリビドーに忠実になるのが一番です。
ペイしなくていいなら小説の値段設定は300円くらいが妥当だと思います。
ここからはさらに余談になりますが、あと2つ、対策があります。
1つは『合同誌』をつくることです。
出資者をつのることで、各人でリスクを分散することができます。
少ないお金でページ数の多い本を出すことができ、参加者が多いことで関係者が購入してくれる割合が高くなります。
デメリットとしてはチームプレイなので、リーダーがまとめられない人だったり、サボる人や締め切りを守らない人やお金を払わない人がいると本が出せなくなることです。
もう1つは、小説をあきらめることです。
漫画を描ける人をどこかでスカウトして、自分の原作で漫画を描いてもらう。
あまり言いたくありませんが、僕は早々に小説同人に見切りをつけてこの方法に逃げました。マッチングサイトでいろいろ募集もできるみたいです。
あまりに値段を気にし出すと前編にあった記事のようなことにもなりかねませんし、結局は人それぞれ、という第2の結論でお茶を濁して終わりたいと思います。
これで僕も、はてなブログお茶濁シストの仲間入りです。やった。
部数の話まですると本気で長くなるので割愛します。
Togetterなどにいろいろまとめられているので、読んでいると「ほえー」となることが多かったです。
では長くなりましたが、こんなところで。また明日!